ギャンブル中毒回顧録 第4話
1.ひたすら偲ぶ
その夜、いろいろな思いが、頭の中を駆け巡った。
カメラに収めているソフィアの笑顔、ソフィアと一緒に撮った観光地での記念写真、彼女に秘密で撮った彼女の寝顔。
全て自分の宝物だった。日本に帰国したら真っ先に友達に見せて、こんな美人とこんなことしたぜ!と自慢するつもりだったのに。
もうカメラはない。彼女を偲ぶものはなにもない。。。
こんなことなら、無理矢理でも一発やっておけばよかった。いや、せめてキスだけでもやっておきたかった。
っというか、手すら握っていなかったのに!!
「あー、ちくしょー!!!」
そんなことばかりずっと考えていた。悔しいやら、情けないやらで、もう頭の中は真っ白になっていて、とめどなく涙が溢れた。
自分は誰にも愛されることはないんじゃないか。。。あんなに好きだと思ったのに、彼女はただ私の財布にしか興味がなかったのかもしれないと思うと、その現実はあまりに残酷で悲しすぎた。
ただ失恋の痛手を感じながら、泣きつかれて私はそのまま眠りについていた。
2.事件勃発
朝、けたたましい電話の音で目を覚ます。
「まさか、ソフィアか?」
そんな淡い期待とともに、浅い眠りから飛び起きた私は電話の受話器に飛びついた。
はたして、それはホテルのフロントからの電話だった。
「チェックアウトのお時間です。」
やばい。私の背筋が凍りつき、悪夢のような現実が私に襲いかかる。
とっさに「延泊はできますか?」と聞くと、可能だという返事が返ってきた。
いますぐ、このホテルを出ていく気になれなかった。そんな気力はなかったし、ソフィアが戻ってくるかもしれないという淡い期待があったから。
そして、それ以上に大きい理由は、お金だった。
彼女のために、彼女を思う気持ちに比例するかのように、私はホテルのグレードを上げていた。
このホテルは1泊1万円を超えていた。
3日分を払うと、もう残金は2万円を切ってしまう。
そんなはした金で、このトロントの町に放り出されたら、マジでやばい。。。
ただ、冷静になると延泊せずに、いますぐ安いホテルに移動するのが正解な気もした。
「どうしよう。。。あ、どーしよう!!」
声に出して叫び、狭い部屋の中をうろつき出した。
あのクソアマ!!
ここに来てやっと、彼女に対しての怒りを感じはじめていた。しかし、彼女が万が一戻ってきたら受け入れているだろうと考えている自分もまだ確かにそこにいた。
海外にてトラブルでお金がなくなったときはどうしたらいいか、そんなトラブル事例もガイドブックにあった気がする。私は、一縷の望みにかける思いで、ガイドブックを手にとった。
巻末のページをめくると海外送金サービスの案内がある。
「これしかない。親に頼るしかない。」
手持ちの残金は5万円。航空券代とホテル代、食費や空港までの移動費。これが確保されるまでは、1円たりとも無駄にできない。
私は、まず親に連絡をとるべく、ホテルのフロントで電話を借りた。
誰も出ない。よくよく考えたら、いまは深夜2時。誰も出るはずはない。
日本が朝を迎えるまで、待つしかない。
私はとぼとぼと街へ出かけると、近所のスーパーでパンを3つと水を買った。
これで、一日過ごさないと。
じっとしていられなかった。でもお金がないので、ホテルの部屋でじっとするしかなかった。
お金がない不安と彼女を失った喪失感、怒りと悲しみ。でも、ふと湧き上がる感謝。1週間ほどとはいえ、楽しかった思い出。
様々な思いに自分自身頭がおかしくなるような気がした。
眠りにつこうにも、寝付くことすらできない。ここで死ぬのもいいかもしれない。大好きな旅の途中で死ぬのも悪くないかもしれない。
そんなことすら考え始めていた。