ギャンブル中毒回顧録 第11話
1.チップ3,000ドル超え!
時刻は既に0時を過ぎていた。
夕方の時間が嘘のように、私はブラックジャックテーブルでチップを増やし続けていた。
私の目の前には、3,000ドルのチップが積まれていた。
ベット額は一定の50ドル。2連敗すると、100ドルにBET額を上げる。
ただひたすらこれをくりかえし、100ドルベットのときに、ダブルやスプリットという状況が何度か来て、これが滑ることはなかった。
そして幸いなことに、3連敗することはほぼなく、順調にここまでチップを増やした。
これで、借金を返済してお釣りが来る状況まで来た。
今日はこの辺にしておこうか。。。
とも考えるが、ホテルに戻ってもやることがない。まだ学生だった私は、夜の街の遊び方など一切知るよしもなかった。
すぐに負けることも想定していたので、明日のフライトは早朝便を取っていた。
ホテルには深夜3時頃に戻って、4時には空港に行くとしたら、あと3時間もない。
ならば、この手法でチップを増やし続けることにした。
ただ、今はただついているだけだ。ずっとプレイしていたら、いつか負けるときがくるというのを夕方の負けで学んでいた。
少し休憩して、他のテーブルの状況を見よう。
チップを手に席をたち、フラフラとカジノを徘徊すると、ひときわ盛り上がっているテーブルがあった。
2.バカラ観戦
それはバカラテーブルだった。
状況を確認しようと、群がっている人の群れに加わる。もちろん、これみよがしに3,000ドルのチップを持ち、俺は持ってるぜ!アピールは忘れない。
はたして、そこにはビールを片手に山のようなチップを築き上げている男がいた。
既に少し酔っているのだろうか?顔は真っ赤になっている。
ちょうどその男が勝利したところだった。ディーラーが1,000ドルチップを5枚ほど男の手元に差し出している。
私は目を疑った。日本円にして、40万円以上の大金を1ゲームで賭けているなんて。。。
男のチップ量を目視で確認してみる。見たことないチップが数枚ある。どうやら10,000ドルチップのようだ。
これが、7枚ほどあり、さらに1,000ドルチップを20枚ほど重ねた束が3本ある。
総額にして、約13万ドル。日本円にして1,000万円を超えている。
そして、一回のベットで約5,000ドルを賭けている。
こういう客は本来はVIP席でプレイしているものだが、たまに一般客用のテーブルでプレイすることがある。
そして、私は完全にこの男の戦いに惹きつけられていた。
100万円貯めるのに、数ヶ月必死でアルバイトをした。自分の数ヶ月分で貯めるお金が、一瞬で動いていく。
こんな世界があるなんて。。。私は、あっけにとられていた。
男は勝っても負けても表情をほとんど変えることなかった。
ただ、バカラの罫線を見ながら、グビッとビールに口をつけると1,000ドルチップを5枚、どちらかに置いていく。
バカラは全く無知だった私は、勝敗がどう決まるのかすら分からずただひたすらチップの行方を追っていた。
男は毎回カードに触れもせず、ディーラーにカードを開くように促す。
そして勝っても負けても、特に表情を変えず、ただジッとバカラの罫線を眺めていた。
男の勝負を眺めはじめて10分ほど経過したころ、カジノのセキュリティが人払いにやってきた。
プレイもしていないのに流石に観客がテーブルに集まりすぎたようだ。
男以外は誰もそのテーブルでプレイせず、ただみな後ろでジッと勝負の行方を眺めていたのだから当然といえば当然だった。
私は後ろ髪をひかれる思いで、セキュリティに促されてその場を離れた。
熱にあてられたように興奮していた。こんな大金が動くゲームがあるのかという思いと、こんな大金を賭ける人間がいるのかという思いが交錯していた。
再びブラックジャックテーブルに戻り、チマチマと50ドル、100ドルを賭けていく。
今の自分には、この金額が限界だ。しかしいつの日か、サラリーマン一ヶ月分の給料を賭けられる人間になりたいと考えていた。
結局その日私は4,000ドルまでチップを増やしてカジノを後にした。