ギャンブル中毒回顧録 第14話

1.世界遺産 水原観光

1.世界遺産 水原観光

翌日起きると彼女はすでに身支度を整えていた。
その日はソウル郊外の城郭都市で、世界遺産にも登録されている水原市へと行く予定だった。

私も急いで身支度をすませると二人で電車に乗り込んだ。

道中私は、彼女にバカラのルールや勝ち方のコツを改めて教わった。

そして、昨日はやはりもっと続けるべきだったのだとお叱りを受けた。
調子が良くて勝ってるときは、自分で自分の運に蓋をしちゃだめだよ!と彼女はまるでベテランギャンブラーのような言葉を私に投げかけた。おそらく誰かの受け売りなのだろう。男であることは間違いないので、なんとなく微妙な気持ちになった。

水原到着後、一通りの市内観光を済ませ、名物の水原カルビを堪能した。

しかしどこか2人とも楽しんではいるものの、どこか心あらずな状態が続いていた。

原因ははっきりしている。早くカジノに行きたいのだ。早くカジノに行って、昨日の続きをしたいのだ。

まだ昼過ぎで、午後に回る予定の観光地もまだ残ってはいたものの、私がそろそろソウルに戻ろうか?と冗談っぽく言うと、彼女の目が一瞬ギラリと光った。
そして今日一番の笑顔で彼女は、一番のみどころは見たし、もう帰ろっか!と言ったのである。

2.ビギナーズラック継続なるか?

2.ビギナーズラック継続なるか?

ソウル到着後、一度ホテルに戻り私が部屋のベッドに身を投げると彼女はカジノに行こう!と私を急かした。
ホテル玄関前に待機していたタクシーに乗り込むと我々はウォーカーヒルへと直行した。

早速ゲーム開始である。バカラも2日目となるともう慣れたものである。

罫線の見方もなんとなく板についてきた。罫線から規則性を見つけ出し、それに従って打つ。
しかし罫線を見る限り絶対こっちだと思っても、逆の目が出るのでバカラは難しい。

その日は一進一退の状況が続きチップが減ることもなかったが、大きく増えることもないままゲームは進行していた。
ジリジリとした展開が続くなか、ここまで意見が割れることも少なく常に同じ方にベットしていた我々だったが、以下のような罫線となり彼女と私の主張がぶつかった。

私はバンカーもプレイヤーも3連勝で止まっているので、ここはプレイヤーだと主張したが、彼女はここはバンカーの連勝を狙わないと次がわからなくなると主張した。

少しの間押し問答をしていると、我々がプレーしているテーブルにチップをたくさん持った親父が腰掛けた。
見たところ韓国人のようだ。かなりのチップを持っている。大量の10万ウォンチップに100万ウォンチップが数枚確認できるので、1,000万ウォン(約100万円)くらいはあるようだ。

男はちらっと罫線を確認するとすぐにプレイヤーに100万ウォンチップ(約10万円)を置いた。
そして、ディーラーに少し怒気をはらんだ声でなにか言っている。手の動きで早くカードを配るように要求しているのだろうと分かった。

我々はそこまでミニマムベットの5万ウォン以上をその日はベットしていなかったのだが、彼女は唐突に10万ウォンチップを3枚、男が賭けた方とは逆のバンカーに置いた。彼女はここを勝負所と見たようだ。

私はプレイヤーだと主張していたものの、彼女につられるようにバンカーにチップを置いた。見栄もあったのだろう。彼女と同額の30万ウォンを咄嗟にベットしてしまっていた。
本日のマックスベット。いや、昨日のマックスベットも15万ウォンだったので、今までで最も高いベット金額だ。

「No More Bet」というディーラーの声が、妙に耳に残った。

男は配られたカードの1枚をすぐにめくった。9のカードが見えたと同時に、男はテーブルを叩いてバンッと叩いて喜びを表現した。
そして「アボジ!アボジ!」(韓国語で絵札を意味する)と言いながら、2枚目をゆっくり絞り出した。

絵札が出たら9。こっちも9を出さない限り負けとなる。

私はもう敗北を覚悟して顔を歪めていたのだが、彼女は冷静な表情で男が絞る様子を見ていた。
男はかなりカードを絞るのに時間をかけている。そして絞りきった男が「カァーーー!」と声を上げてカードをぐしゃっと握りつぶしてディーラーに投げ返した。

くしゃくしゃになったカードをディーラーがめくる。結果は6で、プレイヤーは9+6で5だ。

私がほっと胸をなでおろすと、彼女は「かなり絞るのに時間かけてたからピクチャー(絵札)はないと思ったよ。多分足付き(4~10のカード)だろうなって感じで、9か10はやめてーと思ってたんだ。」と私に言った。

なるほど!相手の絞り方でどのカードか大体予測がつくのか!と目から鱗の気分であった。

さて、我々のターンだ。

彼女はまず1枚目を絞り始めるとすぐにめくった。何度も見ているのでこの仕草はピクチャーだと分かった。
そして、2枚目のカードを絞り出す。「足ある!」と彼女は言った。「お!3サイド(6~8)がいいね!」と言うと、「任せて!」と彼女は力強く言った。

またゆっくりとした時間が流れる。そして、しばらく絞ってから「あーーー。1/2で決まる。」とつぶやいた。

咄嗟になんのことかわからなかったのだが、4サイド(9か10)なのだと理解が追いついた。
「まぁ10でももう一回になるし、気軽にめくりなよー」と言うと、彼女は「そうだね!」と同意するものの、その言葉とは裏腹にかなり緊張した面持ちで絞り続ける。
私ももちろん緊張していた。

しばらくして彼女からため息が漏れた。そして開かれたカードは10であった。

プレイヤー 5 バンカー 0

勝負は3枚目に持ち越されたが幕開けはあっけなかった。

最初に、男に3枚目のカードが配られた。男は配られたカードの縦側を確認すると、「カァー!」と声をあげた。
そして、「どうだ!」と言わんばかりに、そのカードをバンとテーブルに叩きつけた。
この場面で男にとって最高のカードは縦(1~3)なので、どうやら足(4~10のカード)があることに失望して、どうにでもなれという気分でもあったのだろう。

そして、テーブルに叩きつけられたカードは我々にとって最高なカードであった。

そのカードは5。 5+5でプレイヤーは0となった。

思わず私は握りこぶしを作って、よし!これで負けなし!と小さくガッツポーズした。

ディーラーがカードを我々のほうに配った。彼女は今度は時間をかけず少し絞って、よし!とつぶやいてすぐにカードを開いた。結果はA。

プレイヤー 0 バンカー 1で我々の勝利だった。