ギャンブル中毒回顧録 第7話

1.手持ちチップはどこへ

1.手持ちチップはどこへ

おっさんに愛をささやくように「Fucking Jap」と言われてから、私のプレイは完全に狂いだした。

正しいプレイをしなければという意識だけが先行して、それからの私は何が正解なのか、何が間違っているのか分からずに、完全に混乱してしまった。

最初のプレイを今思い返すと、ただバーストを極力恐れていたチキン野郎だけど、まぁ一緒にプレイしていたら許容できる範囲内と思える。

もちろん、まじかよ。。。そこでヒットしていなければとかは多少は思ったと思うが、目くじらをたてるほどひどいレベルではなかった。

しかし、「Fucking Jap」発言以降のプレイは、本当にひどいものだった。
もっと攻めなければという意識が生まれてしまい、ディーラーのカードが4や5か6で、こっちが14や15のときにヒットをしてしまい、結果ディーラーに行っていたはずのピクチャーカードがこちらに来たり。

正しいプレイをしている分には誰も何も思わないが、間違ったプレイは目立つし、それが原因で皆が負けると場全体が本当に白けてしまう。

そして、正しいプレイとは確率的に考えて勝てるプレイだ。逆を行って勝てるときもたまにはあるが、長い目で見ると負けるプレイが間違ったプレイだ。

必然的に私のチップはみるみる減っていた。

そして、私が座る前は盛り上がっていたはずのテーブルも、1人、2人と席を離れていってしまった。

残りチップは既に70$近くまで減ってしまっていた。

もともと100$でスタートしているので30$の負けなのだが、一時期150$を超えていたことを考えると半分以下まで減らしてしまったと感じていた。

70$を倍にしても150$には届かない。賭金を上げよう。

ブラックジャックは、ダブルはともかくスプリットがあるので、賭金を一気にあげるのは良くない。
ダブルの場合はダブルをしなけれないいだけだが、スプリットに関してはスプリットをすることで勝ち率があがるのだから。

さらにスプリットしてからダブルをするという状況もあるので、これが本当に最後という状況でない限りオールインは極力控えるべきだ。

しかし罵倒され白い目で見られ、さらに負け始めている私に冷静な判断はできなかった。

残りの70$チップをBETに置くと、私はただ必死に祈った。

ディーラーの最初のカードは7。

私の最初のカードは、8、次のカードは8。合計は16。

本来は大チャンスだった。スプリットすれば良い。

しかし私には残りの金をチップに換えて、70$を追加で払う勇気はなかった。

スレンダー(ディーラーの次のカードを見ないで、降参することで賭金の半分が返ってくる)が一瞬頭によぎったが、無為に35$を失うのも耐えられなかった。

もう一枚引くしかない。

私の順番が来ると、私はトントンとヒットの合図をディーラーに送った。ディーラーがカードを配るとそのカードは無情にも9だった。

最悪のバースト。

私のチップが無情にもディーラー側に持っていかれてしまった。

スプリットしていれば、あるいはステイしていれば、勝機があった。
そして、ディーラーのカードはピクチャ、ピクチャ。度胸があれば勝っていただろうに、私は負けた。

もしスプリットしていれば、9とピクチャーが私に来ていた。もしヒットしていなければ、9はディーラに行っていて、ディーラーはバーストしていた。。。

他のプレイヤーは皆小さく歓声をあげた。

ディーラーがバーストしたのもそうだが、私がチップを失ったことが嬉しい様子だった。

疫病神は去れという感じだろう。

私は、静かに席をたった。残金は450$ちょっと。負けたままおめおめと帰れるはずもない。

私はもうそのテーブルでプレイを続ける気力を失い、一人でゆっくりプレイできるテーブルを探しミニマムベット50$のテーブルに腰掛けた。

2.50$ブラックジャック

2.50$ブラックジャック

先ほどまで、日本円にして約850円ほどの勝負をしていたのに、いきなり1BET約4,200円ほどの勝負に挑む。

予算的にも、初心者ということも考慮すると、10$卓でプレイを続けたいというのが本音だったが、それ以上に一人でゆっくりプレイしたい。誰の目も気にせずにプレイしたいという思いが強かった。

手持ちは450$弱。50$は、帰りの交通費としてとっておこうと、400$をチップに変える。

25$チップが16枚手元にくる。私は、ゆっくりと25%チップを2枚重ねて勝負に挑んだ。

今は、ディーラーと1対1の勝負。誰も邪魔することはない。
さっきまでは7人全員にカードを配るため、ゲームの進行も遅かった。1対1だとペースが早いので、せっかちな自分に向いていた。

最初は1ゲームごとの勝敗に一喜一憂していたが、ダブルを含めた3連勝で持ち金が600%を超えた頃には私は完全に落ち着きを取り戻していた。

そして、ここで大チャンスが訪れる。

ディーラーは5、私は88のペア。

50%を追加で置いて、スプリットを選択したところ、また8が来た。

また50%を置いてスプリットをすると、3が来た。

足して11。ピクチャーが来れば、21だ。私は、また50$を置き、ダブルを選択した。既にこの勝負に全体で200$を費やしている。

頼む!ピクチャー来い!

結果来たのは、K。21。これでこのベット分の負けは絶対にない。

私は少し安堵して、もう一つの8に追加のカードを呼び込む。結果は2だ。
私は、また50$を追加して、ダブルを選択する。

頼む!Aかピクチャー来い!ディーラーがデッキに手を伸ばしてカードを配るまでの挙動をじっと目で追いながら私は祈り続けた。

果たして祈りは通じた。来たのはJ。足して20。ほぼ負けることはないだろう。

もうダブルじゃなくてもいい。最後のスプリットは冒険したくない。

そんなことを思いながら、8にカードを呼び込むと来たのはA。Aは1にも11にもなるので、足して19だ。19なら悪くない。
本来ならダブルなのだが、もうすでにテーブルに置かれているチップ数は私の許容範囲を超えていたので、ステイを選択した。

さて、ディーラのカードは5だ。ピクチャー2枚が来れば、バースト。まずは一枚目のカードがピクチャーであればバーストの可能性は高まる。

既にこの勝負に250$を費やしている。勝てば、250$。

100$分のベットを費やしている21は絶対負けはない。

私はディーラーに少し待ってくれ!と伝えて状況を整理する。

最初のボックスは21で100$、次は20でこれまた100$、最後は19で50$。
ディーラが21を出せば、-150$。ディラーが20なら、+50$。ディーラが、19なら、+200$。ディーラーが18以下かバーストなら、+250$。

そして手持ちチップは現在、350$。勝てば、一気に抜けられるな。。。

よし。いいだろう!結果を見よう。

私はディーラーに目配せをして、「Please deal!」と伝えた。

ディーラーは私の緊張を読み取ったのだろう。普段よりゆっくりとカードをめくる。

一枚目は果たして、5。足して10となってしまった。次にAかピクチャーが来てしまったら。。。

しかし、2枚めのカードが7か8なら、最高だ。。。いや、8は既に3枚も出てしまっている。ピクチャーはやめろ!

そんなことを考えていたら、ディーラーは機械的に次のカードに手を伸ばしていた。

次のカードは6。

お!これはバーストあるな!!

そんなことを考えている暇もなく、ディーラーは既に次のカードに手を伸ばしていた。

結果は。。。Qのピクチャー。

瞬間、よっしゃー!!!という大きな叫び声がカジノに響いた。

急いでチップを回収しようとすると、ディーラーが待て!という私に合図した。

え?なにかあるのか?まだゲームは終わってなかったのか?

と、キョトンとしていたら、ディーラーはチップボックスからチップを出した。

喜びすぎて、テーブルに自分でベットした元本分のチップだけを回収しようとしまったのだ。

そして、一気に元本の250$と勝ち分の250$チップが私のもとに来た。

これで持ち金は850$。カジノに来て1時間ほどで、300$を稼いだ計算になる。

私は、チップを改めて数えながら去り際について考えていた。持ち金が750$まで凹んだらやめにしよう。

ニヤニヤしながら次のゲームに臨もうとすると、先ほどの叫び声で人が後ろに集まってきていた事に気づいた。

しかし私は、特に恥ずかしがることもなかった。それ以上にこの250$の勝利が嬉しかった。

今思えば250$の勝ちで、雄叫び上げているやつなんていないので、今思い返すと本当に恥ずかしい限りなのだが。。。。