ギャンブル中毒回顧録 第9話

1.今日のアルバイトスタート

1.今日のアルバイトスタート

1,000$を握りしめて、再びカジノのネオンの中へと足を踏み入れた。

今日はもう10$ブラックジャックなどには興味はない。
冷静に考えるとカジノ内にいる人間で自分が一番お金に余裕がないプレイヤーだっただろう。

しかし、昨晩の勝利で、私はすっかり気が大きくなっていた。

今日もサクッとバイトをするか。そんな気分で、昨日プレイした50$卓へとまっすぐに向かった。

相変わらず10$卓は人で埋まっている。

10$、20$の勝利で嬉しいかね。。。俺は、こいつらとは違う。
本当にカジノで食っていけると考えていた。

昨日は誰もいなかった50$卓には、2人のプレイヤーが既にいた。

今日は昨日より人が多い。

私は既にベテラン臭をただよわせつつ慣れた感じで50$卓に座ると500$をテーブルに置く。昨日の勝ち分だ。運が染み付いてるように感じていた。

ディーラーは丁寧に100$札の枚数を確認すると、500$分のチップを私に差し出した。

ベーシックストラテジーは頭に入っている。多少間違えても、ほぼほぼベーシックストラテジー通りのプレイができる自信があった。

最初のハンドは、6と7で13。ディーラーは8

私は、ヒットを選択したところ4が来て、17。定石通りステイを選択すると、ディーラーにはピクチャーが来て、18。

いきなりの敗北。他の2人は勝っている。

私は、再び50$を置く。ここでも結果は負けだった。

「んーーー?間違ったかな?」

北斗の拳のアミバっぽくつぶやいてみる。

いきなりの2連敗。しかし不思議と焦りはなかった。ベーシックストラテジーを体得し、昨日より自分は強くなっているというのがその根拠だった。
昨日勝ったのだから、昨日より強くなっている自分は負けるはずがないと考えていた。

2.悪夢の連敗

2.悪夢の連敗

ひたすら50$チップをテーブルに置き続け、お決まりのようにディーラーのチップボックスに自分のお金が回収されていった。
今日はダブルやスプリットの機会も何度かあったが、なかなか勝負が決まらない。

500$あったはずのチップは残り150$くらいになっていた。

ディーラー側にあるチップボックスにある、芳醇なチップが恨めしく思えてくる。

するともう1人別のプレイヤーが卓に座る。

彼は数枚の100$札をテーブルに置いた。

ディーラーが換金をする。その時間も疎ましい。

さっさと次のゲームに行ってくれよ!私は焦っていた。昨日みたいに、1人でプレイしたい。

人が増えるたびにゲームの進行は遅くなる。それも非常に疎ましかった。
焦っていた。そろそろ自分にもツキが来るはずだ。

手持ちの150$チップを失うと、私はポケットから500$のお金を乱暴にテーブルに置いた。

もう気持ちは「勝ちたい」から「取り返したい」に変わっていた!

私は賭金を上げることにした。

50$で遊んでいても、500$を取り戻すには時間がかかる。100$で賭けていこう。

しかし、その日はツキがなかった。ベーシックストラテジーを知っていようが、勝てないときは本当に勝てない。
14,15ばかりが自分に来て、ヒットしてはバーストするという最悪の流れが続く。

数十分後私は手持ちチップを全て失い、朦朧とした意識でカジノをあとにしていた

3.帰国決定

3.帰国決定

思えば、カジノに入ってから、わずか1時間ほどの出来事だった。
あんなに意気揚々とカジノに向かったのに、こんな失意とともにカジノを出ることになるとは夢にも思わなかった。

昨日500$をサクッと1,000$にした。
その流れで、1,000$を1,500$に簡単にできると信じ切っていた。

カジノ前の人だかりや話し声がつけっぱなしのテレビのようだ。疎ましくもないが、自分もそこにいるのにまるで遠い世界のように感じる。

昨日勝ちすぎたから回収のためにイカサマでもされたんだろうか。。。
カジノが500$ぽっちの勝ちで回収のためにイカサマをすることなどあるはずがないが、当時の自分には500$は大金だったためそんなことまで考え出した。

ホテルへの帰路、私は頭の中で残資金の計算をしていた。ネットで調べたトロントから日本への航空券は約800$。
明日、ホテルをチェックアウトするとして、支払いは5日分で、約700$。

ホテルにあるお金は、2,200$。自由に使える金はじつはあと700$くらいしかない。しかも借金を背負ってしまっている。

実は自分がジリ貧であったことにいまさらながら気づかされてしまった。

こんなことならクレジットカードを作っておけばよかった。

もう帰国したほうがよいのかもしれない。。。

負けは人に弱気にさせてしまう。特に海外では身寄りもなく、最後の切り札である親からの送金というカードを使ってしまっていた自分は正常なメンタルを保つことができなかった。

もう帰国しよう。帰国寸前にお金が足りなくなったら海外で野垂れ死になってしまう。
航空券を買ってホテルも精算して自由に使えるお金を確定させよう。時間はまだ18時だから間に合うはず。

私はトロントの街中の旅行代理店に赴いて、一番早い日本行きの片道航空券はいくらかと尋ねた。
オペレーターが丁寧に対応してくれたがその丁寧さがもどかしい。

さっさと調べてくれ。

自分の人差し指が同じペースでずっとトントンとカウンターテーブルを叩いているのにしばらくしてから気づいた。

明日であれば850ドルのものがあるという回答をもらうと、購入するので少し待っててくれと伝えた。

閉店時間は20時。ホテルに戻って、お金を取ってくれば十分間に合う。

ホテルの精算もすましてしまおう。

フロントに着くと明日チェックアウトするからいますぐお金を払いたいと伝える。

支払いは5日分で720ドル。

部屋に戻り2,200ドル全額を手にすると、すぐにホテルの支払いをすませる。

そしてそのまま旅行代理店に行き明日の朝の日本行き航空券を購入した。

空港までの交通費やご飯代として残金200ドルだけを残して、カジノで最後の勝負をしようと既に決めていた。

4.再びカジノへ

4.再びカジノへ

ホテル代と飛行機代で1,570$が消えた。

虎の子の200$は使えないので、残金は400$ちょっと。

これで、今日の負け分の1,000$を取り返さないといけない。

あの1,000$は本当に大切なお金だったことを実感する。自分のバカさ加減に吐き気すらしてくる。
今朝3,200$のお金が目の前にあったことで、自分はすっかり気が大きくなっていたのだ。

ホテル代や航空券代を考えると、自分は10ドル卓でプレーし50$、100$の勝利で満足すべきだったと本当に後悔した。

しかしもう、後には引けない。

残金を握りしめると私は再びカジノのネオンへと足を踏み出す。

私は今回はブラックジャックではなく他のゲームで遊ぼうと決めていた。

ブラックジャックでずっと50$ずつ賭けても1,000$を取り返せる気はしなかった。

『倍々で増やしていくしかない。』

そうなるとブラックジャックは向いていない。
ブラックジャックは私の感覚では、賭金をある程度一定に保って、元手の50%を増やして満足するようなゲームのように思えていた。

倍々で増やせる丁半博打のようなギャンブルゲーム。一番最初に頭に浮かんだのはルーレットの赤黒だ。

一応他のゲームも見てみるかと、色々とゲームを確認する。

バカラ、カリビアンスタッドポーカー、カジノウォー。

どれも少しプレーを見ていたが、いまいちルールが分からなかったので、やはりルーレットで勝負することにした。

ルーレットは0と00があるタイプのものでアメリカンルーレットと呼ばれるものだ。

フレンチルーレットというものもあり、これは0が1つしかない。
単純に赤か黒かにBETするならフレンチルーレットのほうが断然有利なのだが、初心者だった私はルーレットってこういうものなのかとしか考えていなかった。