賭博黙示録Yo-chi 第2話 マスターの過去

1.マスターの過去

1−1.マスターの過去

マスターは悲しげな目をして僕にこう言い放った。

「お前はアメリカに何をしに来た?悪いことは言わない。そいつらとは手を切れ!!」

僕にはこの意味が全く分からなかった。大学生を心配する親の気持ちくらいにこの時は受け止めていた。

マスターと僕は大好きな野球の話で盛り上がった。マスターは大のドジャースファンで当時、ドジャースに所属していた黒田選手のファンでもあった。

「俺もプロに行きそうな選手だったんだぜ。」

酔いが回った僕は思わず、話を盛っていた。

マスターもこの日はお客さんが来るのを諦めたのか一緒にウイスキーを飲んでいた。

僕らは3時過ぎまでお互いの過去のことや家族のことを話した。

どうやらマスターは離婚をしていて子供は2年前に亡くなったようだ。

一瞬酔いが覚めそうだったが僕はそれ以上何も聞かなかった。

3時を回り、僕は店を後にした。帰り際にマスターは僕に困ったらいつでもここに来るようにと言ってくれた。

孤独だった留学生活にようやく1本の光が差し込んだ。

そう感じながら帰路についた。

2.Subway

2−1.Subway

あくる日、Babsから連絡が入り、ランチを一緒に取ることにした。渡米して以来、週に5日はサブウェイに通っていた

お陰で、野菜の名前は全て英語で言えるようになっていた。

この日もBabsとたわいもない話で盛り上がった。

もちろんBabsは次はいつ来るかと問いただしてきた。

流石に3日連続は。。。

この日は誘いを断った。

Babsは「わかった。」と全く気にしていなかった。

遊ぶ金に困ったらまた来て勝てばいい。

彼はそう言った。

彼はラスベガスでも顔が効くから今度一緒に行こうと誘ってくれた。

ホテルはもちろん無料、女だって用意できると言ってくれた。

カジノ未経験の僕にとってそれはとても刺激的な体験になるだろうと確信するとともに、彼が提供してくれる未知の世界は僕をどんどん取り込んでいた。

そう話す内に昼休みが終わり、僕たちはそれぞれの教室へと戻った。

私生活が徐々に充実していってる。そのように感じた。

この日は僕も課題をやろうと夜まで図書館に籠った。

「何のために来たのか。」

昨日のマスターの言葉は図星であった。

僕が参加していたプログラムは月ごとに試験があり、成績の悪い生徒は強制帰国になる。

3ヶ月間で漸く単位認定になるのでその点は必死であった。

全てが充実している僕は、初めての海外という不安は既に払拭されていた。

日本はダサい。

そうも思うようになっていた。