賭博黙示録Yo-chi 第3話 レートアップ


3−1.絶好調
週末、僕はまたBabsに連絡を入れ倉庫に足を運んだ。
この日はBabsは居なかったが構うことなくカードゲームに没頭した。
この日も絶好調で順調に上がりを繰り返し、気づけば$600程のプラス収支であった。
Babsから今まで勝った金で酒でも差し入れで持っていけと言われたのでウイスキーを差し入れした。
酒を飲みカードゲームを楽しむ。この時には大麻も慣れた手つきで吸うようになっていた。
これがアメリカだ。
リアルハリウッドの世界は僕を魅了し、僕は大きな優越感に浸っていた。
何故か、英語も上達したように思えた。
今日はもうやめて帰ろう。
そう思った時だった。
1人の負けているプレイヤーがレートを3倍にしようと持ちかけてきた。
日本でやっていたギャンブルでは負けている時にレートを倍にしていくという概念は無かった。
と言うより、この時の所持金は$1000を超えており例え3倍になって大負けしてもまだ勝っている。
そう思えた。
そして何より、負ける気がしなかったのだった。
その思いとは裏腹にそこから怒涛の放銃を繰り返し、気づけば収支はマイナスになっていた。
所持金は$70になり今日はもう帰ると告げ、倉庫を後にした。
まだまだ、トータル収支はプラスだ。
今日は偶々、運が悪かっただけとポジティブに捉え、この日も全財産の$70を握りしめてマスターの店へと向かった。

3−2.Shall we dance?
店内に入ると、この日は多くのお客さんで溢れかえっていた。
マスターもどこか慌ただしい様子で僕に見向きもしないままこう言った。
「いらっしゃい。今日も勝ったのか?今日はこれからDJが来るぜ。パーティーナイトだ!!若い女の子も沢山いるぞ。」
手持ち$70の僕にとってはどうでもいい情報だった。
日本でクラブにはよく行っていたがこの日はそんな気分になれなかった。
ウイスキーを片手に今日のゲームの反省をしていた僕の表情をみてマスターは何かを感じとったようだ。
「お前、目が少し行ってるぞ。負けたのか?あそこにはもう行くな。これが最後の忠告だ。金が必要ならうちで働け。」
僕には理解ができなかった。
当時のカリフォルニアは現在と違って、まだ大麻が違法であることはわかっていた。多少の罪悪感はあったがまだ21歳の僕にとって、社会のルールはあまり重要では無かった。
ただ、マスターがここまで心配する理由をこの時から気にするようになっていたのだ。
深夜12時を回り、店内は徐々に盛り上がって行った。相変わらず、カウンターでウイスキーをチビチビと飲んでいた僕の目の前に若し日のアンジェリーナ・ジョリーのようなプロモーションの女性が現れた。
「Enjoy your night?」
これが人生初の逆ナンパだった。
「Could you entertain me?」
僕はこう返した。
まだハタチそこらの僕があどけなく見えたのか彼女は大人な出立ちで僕にこう語りかけた。
「Shall we dance together」
彼女は僕の手を引っ張り楽しそうな笑顔で踊り始めた。
あまりの美しさに僕は赤面した。
ただはっきりと覚えているのは彼女の靡く髪の毛から漂うリンスの香りがどこか心地よくそれが全てのリアルを忘れさせてくれたことだ。
この日は疲れていたのでそのまま帰路についた。
暗闇を歩く僕はふと立ち止まった。
「あっ。彼女の連絡先を聞くのを忘れた・・・。」