ギャンブル中毒回顧録 第6話


1.初めてのカジノへ
ガイドブックを片手にカジノへと向かった。
持ち金は5万円を切っている。カナダドルにして、約550ドル。
TTCと呼ばれるバスに乗り込んで、残金を再度確認し、しっかりとお金を握りしめた。
絶対勝つ。全額取り戻すのは無理かもしれない。でもせめて、もう少しだけ、旅を続けられるように。
カジノは本当にきらびやかだった。色とりどりに輝くネオン。光の洪水にのみこまれるように、私はカジノへの門をくぐる。
パスポートを見せて、カジノの中へと入るとそこには別世界が広がっていた。
フロアを埋め尽くす人の群れ。そして、テーブルに群がる人たち。私は、その迫力に圧倒された。
まずは雰囲気に慣れないと、勝てるものも勝てない。
フリー雀荘なんかを回るときもそうだ。雰囲気に飲まれたりすると、最初はやはり勝てない。
なので、私はすぐにプレイするのではなく、しばらくフロアを徘徊することにした。
今日遊ぶ種目は決めていた。ブラックジャックだ。
ブラックジャックテーブルを徘徊すると数テーブルが見つかった。
ブラックジャックには、ベーシックストラテジーと呼ばれるものがある。
しかし当時の私は、それを全く理解していなかった。テーブルの近くで彼らのプレイを見ていた理由も分析とかではなく、彼らのプレイぶりをただなんとなく眺めて、カジノの雰囲気に慣れるというだけのものだった。
ブラックジャックテーブルをいくつか徘徊していると、どうやらテーブルごとにベット額が違うことに気づいた。
一番安いテーブルでミニマム10ドル。マックスは100ドル。日本円にするとミニマム850円、マックス8,500円だ。
そして一番高いテーブルでミニマム100ドル、マックス1,000ドルだ。
高いテーブルほどプレイヤーは少なく、安いテーブルにはプレイヤーがたくさんいた。
そして、安いテーブルはなかなかシートが空かない。
ただ、皆のプレイをぼぉーと眺めながら、早くプレイしたいという思いが募りはじめたころ、ミニマム10ドルのテーブルでプレイしていたプレイヤーが一人席をたった。。
私は、すぐにそのシートに腰掛けると、他のプレイヤーがそうしているように100ドル札をディーラーに渡した。
ディーラーは慣れた手付きで、私の100ドルをしっかりと確認すると、100ドル分のチップを私に差し出した。
私のテーブルに100ドルのチップが積まれる。
まだカジノの雰囲気に呑まれている状態なのに、私は勝負に急ぎすぎている自分に気づいていなかった。

2.ブラックジャック
ブラックジャックとは、手持ちのカードの数字の合計が 21を超えない範囲で21に近い方が勝ちというシンプルなゲームで、プレイヤーとディーラーで勝負する。
私は、基本ルールは理解していた。ダブルやスプリットをするタイミングにも理解していた。
普通にやれば、勝てるゲームだという認識が私の中にあった。
そして、私は順調にチップを増やし始めていた。
賭ける額は常に10ドル。
ディーラーが8以下のときに、自分の手持ち2枚合計が9,10,11のときは必ずダブルする。
ディーラーが7以下のときに、自分の手持ちがペア(2/2 3/3)のときはスプリットする。ただし、10,10のときは、スプリットはしない。
9,9のときは相手のハンド次第でスプリットをする。
あとは、勝ったり負けたりを繰り返しながら、100ドルは150ドルまで増えていった。
しかし、ここで事件が起きる。
私が座っていた場所は、プレイヤーサイドの一番左端だった。
そして、このポジションのプレイヤーは素人や気の弱いプレイヤーは座ってはいけないポジションなのだ。
その理由は、このプレイヤーのアクションが終わった後に、ディーラーがカードを引くことになるからだ。
最後にアクションしたプレイヤーが、ベーシックストラテジーに沿って、正しい選択をしていたら、ディーラーの次のカードはこれだったからみんな勝っていたのに。。。。
こうした状況が起きる。
もちろん逆も然りで、最後のプレイヤーが間違った選択をしたおかげで、みんな勝てたね!という状況もあるので、他のプレイヤーが紳士淑女ばかりであれば、全て結果として受け入れてくれる。
しかし、またあいつが変なプレイをしたせいで負けた。あいつがベーシックストラテジー通りヒットしていれば、ディーラーはバースト(手持ちカードの合計が21を超える)していたはずなのに。。。
このような状況が何度か続くと、他のプレイヤーからだんだんと白い目で見られだす。
そして私は、間違ったプレイばかりしていた。
例:
ディーラの1枚目がピクチャーのときに、自分は15でステイ。
ディーラの1枚目が7のときに、自分は12でステイ。
手持ちのカードの合計が21を超えると、その時点で負けは確定してしまう。しかし、自分のカードが21以下である限りは、ディーラーの手持ちカードの合計次第では勝利することができる。
だから、私はバーストを恐れすぎ、ヒット(カードを呼びこむ)すべき状況でステイ(カードを引かない)しすぎていた。
そして、その結果ディーラーの合計額が、他のプレイヤーを上回ると、あいつがヒットしていれば、あのカードはあいつのものだったから、ディーラーはバーストしていて皆勝ったのにとなる。
正しいプレイをしている分には何も言われないが、間違ったプレイは目につくので、それで全体が負け始めると段々と周りが白けてくるのだ。
そして、私個人では徐々にチップを増やしていたが、私が着席してからはテーブル全体は負けていたのだ。
徐々にテーブル全体が険悪な雰囲気になりはじめたのを肌で感じ始めていた。
皆負けるたびに、ため息をついて私に冷たい視線を送ったりしていたのだ。
特に隣でビール片手に飲みながらプレイしているおっさんはひどかった。
私が座って以降、ほぼ負け続けておりかなり苛立っているようで、ミニマム10ドルのテーブルなのに、賭金は50ドルをボンボンと賭けていた。
そして彼は、口調も乱雑で、負けると「Fuck,Shit」などとつぶやいていた。
さすがに大声では言わないが、私や向こう隣のプレイヤーには確かに聞こえていた。次第に彼からは、少し距離を取るようになっていった。
そして、悪い流れは変わらないまま、ついに隣のおっさんプレイヤーが手持ちチップを全て失ってしまう。
私は正直ホッとしていた。ようやく彼の圧から解放されると。
しかし、彼は去り際に、私を睨みつけて、私に聞こえるようにとんでもない言葉をつぶやいた。
「fucking Jap」
通常こんなにマナーが悪いプレイヤーは探すのが難しいほど滅多にいないのだが、初めてのカジノでまだ萎縮していた私はこの言葉で完全に凍りついてしまった。