ギャンブル中毒回顧録 第8話
1.大勝利
その後チップは750$まで落ち込むことはなく一進一退を繰り返したが、ブラックジャックを何度か引き当てた結果、1,000$に近づいていた。
わずか1時間半ほどで450$、日本円にして4万円を稼いだ計算だ。
私は勝ち分が1,000$に近づいてから、時間を気にする素振りを見せていた。去り際が分からないものの、ただ勝ち逃げでサクッと逃げたやつと思われたくなかったのだ。
この空間には私とディーラーしかいないのに。。。
チップが1,000$に達したとき、私は、もう一度時計に目をやり、少し間をおいて「残念ながらそろそろ行かないと。次のゲームでラストにするよ。」とディーラーに伝えて、50ドルチップを置いた。
予定なんてあるはずもないのに。
勝ちが望ましいが、負けるにしても勝ち分をできる限り減らしたくないので願わくばダブルやスプリットをしないですむ状況が望ましいなと考えていた。
そして最後の勝負は無難な勝利で終わった。
500$ジャストの勝利。
私が意気揚々とチップをかき集めていると、ディーラーが「大きなチップに交換しないのか」と言ってきた。
私はチップをディーラーに差し出すと、彼は丁寧にチップを数えてから1,000$チップを私に差し出した。
1,000$チップは他のチップより少し大きいデザインでなんともいえない重みがあった。この重みが、勝利を実感させる。
換金所へ向かう途中、私は、先ほどまでプレイしていた10$テーブルの方に顔を出した。
チマチマと10$賭けて私に冷たい視線を送って来た奴らはどうなっているのだろう!と気になったのだ。
1,000$チップをこれみよがしに手のひらに乗っけながら、貧民どもで賑わっている10$卓の後ろでゲームを見てみるが、誰も私に気づかない。。。。
ということで、帰るか。
換金所で、1,050$を手にすると、私は、カジノを出た。
「俺は天才だーー!!時給300$の男だ!」
北斗の拳に出てくるアミバっぽく心のなかで叫んでいた。世界の中心には私しかいないように感じていた。自分は本当に博打の天才かもしれない。
外に出た後のネオンがいつも以上にキラキラと輝いているように感じた。外の喧騒が愛おしく感じる。
カジノからの帰路、何度もポケットに入っている札束の感触を確認していた。
このお金をどうしようか?とりあえずホテル代を払おうかとも思ったが、これを元手にもっとお金を稼ぐことにしよう。
カジノにおけるお金は、ライフポイントだ。
原資は多いほうがいい。
ホテルの部屋に戻ると私は延泊すると伝えて、部屋に戻ると今日の勝利を噛みしめながら何度もお金を数えていた。
2.親からの送金受領
親からの送金20万円を受け取った。
送金手数料等が多少差し引かれて、2,200$ほどのお金が手元に入った。
持ち金はこれで3,200$を超えた。
これで旅はもっと続けられる。改めて私は安心感を噛み締めていた。
今日もさくっと勝とう。今日勝つお金で、ホテルの精算をしよう。
そして、安ホテルに移動しよう。
そんなことを考えながら今日はトロントの観光をすることに決めた。
久々に心は穏やかだった。
どうやら、失恋のとき感じた喪失感、孤独感、不安感は、お金に余裕がなかったというのも大きな要因だったのだろう。
またカジノで500$を稼いだというのが、私の自信になっていたというのも大きい。
私は観光そっちのけで昨日のゲームを思い返していた。
どうせ勝てるだろうけどカジノ行く前に念のためにベーシックストラテジーでも学んでおくかとという考えに行き着いた。
ホテルに戻るとインターネットでブラックジャックのベーシックストラテジーを頭に叩き込んだ。
かなり意外だったのはディーラーが10のときに、こちらが11の場合ダブルをするという点、そして10-10のペアの際は相手のハンドに関わらずスプリットするという点だ。
あとやはり、ヒットすべきレンジは、私が思っているよりずっと広いということだった。
この通りにやれば勝率は51%手持ち資金は3,200$ある。
ただ、2,200$は借りた金だ。今日の軍資金は1,000$ほどにしておこう。
日が暮れる頃に、私は再びカジノへと繰り出した。